バランスシート(貸借対照表;B/S)は、左側に会社の保有する資産を縦一列に並べて表示し、右側にその財産の調達方法を並べて表示する表です。
(左側) 貸借対照表 (右側)
―――――――――――――――――――
(資産の部) | (負債の部)
現金預金 | 買掛金
売掛金 | 短期借入金
未収金 | :
短期貸付金 |・・・・・・・・・
有価証券 | (資本の部)
棚卸資産 | 資本金
: | 当期未処分利益
| :
左右対称の形で表示されることから、貸借対照表と呼ばれます。
※会計の世界では、左=借方(かりかた)、右=貸方(かしかた)と呼ぶ慣行があります。
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右上は、「負債」と言って、株主以外の者(他人)から調達した分で、買掛金(商品代金の未払い)、借入金、未払金(商品以外の代金の未払い)などから成っています。
右下は、「資本」と言って、株主からの出資(元本)と、事業活動で得た利益(果実)から成ります。資本は、株主に帰属する分ですね。
さて、今回取り上げたいのは、左側(借方)の資産の中でも、金銭債権という種類の財産です。
金銭債権とは、「金銭を受け取る権利」のことです。
かんたんにいうと、「将来、お金をもらえる請求権」ですね。
決算書の表記上、さしあたり知っておきたい金銭債権は、次のとおりです。
・売掛金
… 売上代金の未回収分。
いわゆる「ツケ」が、これに相当します。
単に請求書等による通知の裏づけしかないので、下記の受取手形ほど、権利は強くないです。
通常、未回収の期間は1ヶ月程度です。
・受取手形
… 手形の発行を受けて売上代金を待ってあげる分です。
手形債権ともいい、法律により強い保護を受けています。
その分だけ、回収日(満期日)までの期間が長く、3~6ヶ月くらい、未入金であることが普通です。
販売者の側では、未入金の期間が長いので、あまりうれしくない金銭債権です。
・未収金
… 商品以外の売却代金の未回収分。
たとえば、有価証券や固定資産を売却処分した時の未入金分です。
製造業の場合、下請け支給品代(材料有償支給額)の未回収分の計上にも、使われたりします。
商品販売の未回収分(売掛金)とは区別して債権管理します。
・貸付金
… 金銭消費貸借などで、他人に金銭を貸し付けた額です。
決算日の翌日から一年以内に回収される債権は「短期貸付金」、一年を超えて回収される債権は「長期貸付金」といいます。
さて、上記のような金銭債権は、B/S上、どのように評価されるのでしょうか。
結論から言うと、「取得原価-貸倒引当金」です。
まず、取得原価とは、「その金銭債権を取得するために要した金額」です。
たとえば、売掛金と受取手形については、その金銭債権を取得するために要した営業努力は、「商品やサービスの販売価額」で測定できますよね。
つまり、売掛金・受取手形の取得原価は、「売上高のうち、未回収額」です。
たとえば、商品100万円を販売し、20万円を現金で受け取り、80万円を掛けとした場合、決算書の変動状況は次のようになります。
貸借対照表 損益計算書
――――――――――――――――― ――――――――
現 金+20| 売 上 高100
売 掛 金+80| :
| ――――――――
|利 益+100 ←←利 益100
|
―――| ―――
合計 +100|合計 +100
また、未収金は、売却した有価証券や固定資産などの売却額のうち、未回収分が取得原価となります。
貸付金は、相手に貸した額、あるいはその貸付債権を買い取るときに支払われた額が、取得原価となります。
その取得原価に相当する額が、いつも全額回収できるなら、世の中苦労はありません。
たとえば、年収600万円の勤め人甲さん、年収400万円の勤め人乙さん、定職を持たず、もっぱらアルバイトで生計を立てている年収200万円の丙さんの3人に、それぞれ50万円ずつ貸したとしたら、どうですか?
貸借対照表 損益計算書
――――――――――――――――――― ――――――――
|
貸付金150 | :
(3人分) | ――――――――
|利 益 ←← 利 益
|
年収だけでその人物を評価するのもなんですが、常識で考えれば、年収600万円の甲さんが、最も全額を返してくれそうですよね。
そして、定職を持たない丙さんは、最も回収不能のリスクが高いといえます。
そうすると、上記の貸付金を150万円で評価することが、実態を表さない過大評価になる可能性がでてきます。
そんなおり、つい最近、丙さんが済んでいる家賃4万円のオンボロアパートが、建て直しの必要に迫られて、出て行くことになったとします。
丙さんは、しかたなく近所で家賃7万円のアパートに引っ越すことにしました。
月3万円の家賃負担増ですから、年間で36万円もの経費負担です。
ただでさえ年収の少ないの丙さんに、これはかなりの打撃です。
こういう場合、債務者の支払い能力に、重大な問題が生じた、と考えることができますよね。
実際、丙さんとの話し合いで、これ以上丙さんを追い詰めたら、逆に夜逃げれてしまいかねないほどの危機感を感じましたので、あまり強い態度をとらず、それでいてできるだけ回収するよう、努力する方針に決めました。
そして、現実問題として、貸した50万円の半分しか回収できないだろう、という見積もりをしました。
そのさい、あなたは、現時点での金銭債権150万円のうち、丙さん向けの貸付金50万円×50%=25万円は、将来回収不能になると見積もりましたので、その将来の費用ないし損失を見積もり計上します。
こういうのを引当金というのですが、引当金は、
「当期以前にその原因が生じていること」、
「発生の可能性が高いこと」、
「金額を合理的に見積もれること」
などの要件が満たされて、初めて将来の費用を当期に前倒し計上できます。
したがって、当期にその原因があっても、それに伴う将来の費用・損失が合理的に見積もれない場合などは、引当金という見込み費用を計上できないのです。(例:JR西日本の事故賠償費用など 日経8月10日11面)
上記の丙さんに対する貸倒れの見込み額25万円は、「貸倒引当金」といい、貸付金など、金銭債権の控除項目として表示されます。
■丙さんに対する金銭債権を一部切り捨てた(処理した)場合の決算状況
貸借対照表 損益計算書
――――――――――――――――――――― ――――――――
| 貸倒引当金△25
貸付金150 | 繰入額
貸倒引当金△25 125| :
――― | ――――
|利 益 △25←← 利 益 △25
|
このように、債務者(貸付先)の信用状況によって、金銭債権の控除額を合理的に見積もるのが、会社決算上の重要な課題の一つなのです。
ちなみに、一般事業会社の場合、特に問題のない優良な債務者に対する金銭債権を「一般債権」、経営破たんにはいたらないが、重大な問題を抱える債務者に対する債権を「貸倒懸念債権」、実質経営破たんに陥っている債務
社に対する債権を「破産更生債権等」といって、3段階で区分して、貸倒引当金を設定するのです。
銀行は、金銭債権の管理が本業とも言えるので、この区分がもっと詳細です。
以上、貸倒引当金という、不良債権処理にも深く関連する話題でした。
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