会社が保有している財産(資産)には、大きく次の3つがあります。
1.現金預金
2.金融資産(金銭債権や株式、債券など)
3.事業資産(棚卸資産、土地、建物など)
以上をもうちょっと俗っぽく言うと、
1.カネ
2.ケンリ
3.モノ
こんな感じです。
バランスシート
―――――――――――――――――――
カネ | 借金
ケンリ | 資本金
モノ | 利益
|
↑ ↑
(会社の資産) (調達方法)
バランスシートの左側にある資産のうち、カネやケンリ(金融資産)は、原則として決算日現在で換金したらいくらになるか?といった換金額ベースでの評価が重要となりますよね。
たとえば、カネなら、その表示額がそもそも資金の額なので、なんら問題はありません。
つぎに、ケンリですが、売掛金(未回収の売上代金)や取引先への貸付金などを、それを取引している市場がそもそも存在しないので、時価で評価するということができませんね。
このような売掛金や貸付金などのような金銭債権は除くとして、株式や債券などで、証券市場における時価やそれに相当する決算日現在における換金可能額に関する市場価値の情報があるような金融資産は、どうでしょうか。
株式や債券で、市場価格がわかるものについては、やはり決算日現在の時価で評価するのが、現在の投資家などの情報ニーズにマッチしています。
さて、以上のようなカネや金融資産に関する評価と並んで、事業資産(モノ)についての評価をどうするか、と言う問題も、決算処理上、とっても重要となります。
たとえば、会社が保有している本社ビルやその敷地、工場の建物やその敷地は、時価で評価するのでしょうか、
あるいは取得した時の支出額(=原価)で評価するのでしょうか。
バランスシート
―――――――――――――――――――
現金預金 ×××|
有価証券 ×××|
(時価)|
: |
建 物 100|
土 地 200|利益剰余金 ―
: |
たとえば、上記のような建物、土地があったとします。
現時点での評価額(原価)は、建物が100億円、土地が200億円としましょう。
ここで、決算日現在において、土地の方が時価にして220億円と、20億円値上がりしたとします。
それでは、ここで、バランスシート上、土地を220億円と時価で評価し、バランスシートの右側で評価益20億円を計上するのでしょうか。
バランスシート
―――――――――――――――――――
現金預金 ×××|
有価証券 ×××|
(時価)|
: |
建 物 100 |
土 地 220?|利益剰余金+20?
: (時価?)|
ここで問題があります。
問題1
土地の保有目的に照らして、決算時に「売却見込み額である時価」で評価することが妥当か否か?
建物や土地のような事業用資産はそこで営業活動を行い、長期的かつ継続的に収益を得ることができるからこそ、存在意義があるわけです。
そのような意図を持って所有している事業用資産を、「決算日時点で売却したらいくら?」という仮定を元に評価すること自体が、その所有目的と矛盾していますよね。
「当面、売るはずの無いものを、売ったらいくら?と言う観点で評価することの無意味さ」といった感じでしょうか。
問題2
不動産の「時価」って、本当に公正で客観的なの?
俗に、不動産は「一物五価(いちぶつごか)」とも言われており、その時価の解釈には、さまざまあるとされています。
このように、解釈や適用場面で何種類もある不動産の時価につき、一つの評価額をこれだ!と決めたところで、真に客観性を持って受け入れられるか否か、はなはだ疑問である、というのが一般的な解釈ですね。
簡単に言えば、「一部の金融商品を除く資産には、一般に時価の客観性を認めるのがむずかしい」ということです。「時価の客観性に疑義あり」ですね。
※一物五価の具定例:
公示価格、固定資産税評価額、路線価、不動産鑑定士の評価額、実勢価格(実際に売買された価格)このように、評価の客観性の観点、事業用資産の保有目的の観点、それから、このような不確かな時価評価で計上された含み益の換金性・実現性に関する不信があるために、不動産をはじめとする事業用資産は、一般に、「取得時の支出額=原価」で、決算日においても評価するという決まりになっています。
このような評価原則を、「原価基準」といいます。
まとめると、
●金融資産の評価原則は「時価基準」
●事業資産の評価原則は「原価基準」
です。
そうなると、取得原価200億円の土地は、たとえ決算時の時価が220億円であると認識されても、バランスシート上の評価としては、いぜんとして200億円(原価)をひきついで表示することになるのです。
バランスシート
―――――――――――――――――――
現金預金 ×××|
有価証券 ×××|
(時価)|
: |
建 物 100|
土 地 200|利益剰余金 ―
: (原価)|
このように、不動産などの事業用資産は、時価とはことなった評価をされますので、含み益部分があったとしても、それは簿外(表示されない)の資産となるのです。
では、翌期になって、大口の取引先の倒産があって多額の売上債権が焦げ付いたり、棚卸資産の大幅な評価減があったりして、損失がたくさん発生したような場合、どうなるでしょうか。
このままでは多額の赤字を計上することになりかねません。
そこで、決算対策として、その事業年度が終わらないうちに、本社ビルやその敷地を売るなどして、含み益を吐き出し、赤字を回避するといった操作をすることもあります。
(例)土地200億円(原価)の半分100億円を売却し、 時価(220億円×1/2=110億円)との差額10億円を、「固定資産売却益」として利益計上した。
バランスシート
―――――――――――――――――――
現金預金 +110|
有価証券 ×××|
(時価)|
: |
建 物 |
土 地 200|利益剰余金 +10
▲100| ↑
―――| ↑
100| ↑
: : | ↑
↑
↑
損益計算書 ↑
―――――――――――――― ↑
1売上高 ↑
2売上原価 ↑
3販売費及び一般管理費 ↑
営業利益 ××× ↑
4営業外収益 ↑
5営業外費用 ↑
経常利益 ××× ↑
6特別利益 ↑
固定資産売却益 +10 ↑
7特別損失 ↑
――― ↑
当期純利益 +10→・
===
※理解の便宜上、法人税等の影響を無視しています。
このように、不動産などの固定資産を売却したことによる利益が生じたら、損益計算書の特別利益として表示します。
ここに、固定資産売却益と言う項目が出たら、赤字回避のための益出し取引の可能性もあるのだ、ということを知っておいていただけるとよいでしょう。
以上、固定資産の原価評価の問題点と、売却益の表示に関する論点でした。
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