ある会社が、現在の事業ないし地域から、さらに多角化しようと考えた場合、とるべき道はおおきく2つあります。
方法1 進出する事業(地域)に、支店を設置する。
方法2 進出する事業(地域)に、子会社を作る。
以上は、いずれにせよ本部機能(本社または親会社)の支配下としての事業体を、進出したい事業ないし地域に設置する、ということですね。
経済的には、支店でも子会社でもその機能にたいした違いはありません。
法律的に、同じ会社の一部(支店)なのか、別の法人格(子会社)なのか、といった相違だけです。
ただし、本部機能としてのおおもとの単独決算上は、バランスシートにおいて、支店を設置したか、子会社を作ったかで、おおきな違いがでてきます。
ここがおもしろいところですね。
<事例1>
(1)A社は、東京を本店として、出資金1000万円で創立した。
貸借対照表
―――――――――――――――――
現金預金1000|資本金 1000
|
(2)A社は、大阪に支店を設置し、500万円を支払って、商品在庫を購入した。(大阪では、知り合いに店舗を借りたが、敷金・保証金はゼロにしてもらった。)
貸借対照表
―――――――――――――――――
現金預金 500|資本金 1000
棚卸資産 500|
(3)A社の大阪支店は、当期中に棚卸資産(=商品在庫)500をすべて販売し(=売上原価)、販売代金800万円を受け取った。
貸借対照表
―――――――――――――――――
現金預金1300|資本金 1000
棚卸資産 0|利 益 300
↑
損益計算書 ↑
―――――――――――― ↑
売 上 高 800 ↑
売 上 原 価 -500 ↑
支 払 家 賃 - ↑
―――― ↑
当 期 純 利 益 300→・
====
(4)A社の大阪支店は、当期中に、地代家賃を60万円支払った。
貸借対照表
―――――――――――――――――
現金預金1240|資本金 1000
棚卸資産 0|利 益 240
↑
損益計算書 ↑
―――――――――――― ↑
売 上 高 800 ↑
売 上 原 価 -500 ↑
支 払 家 賃 - 60 ↑
―――― ↑
当 期 純 利 益 240→・
====
以上のように、大阪支店はA社の一部なので、当然、売上高や売上原価や経費(支払家賃)が、会社としての業績に
なります。
在庫も、期末の状態(在庫0円)と、社内の状況を表していますね。
では、つぎに、A社が、大阪に子会社を設立させて、同じ事業を始めたと仮定しましょう。
<事例2>
(1)A社は、東京を本店として、出資金1000万円で創立した。
貸借対照表
―――――――――――――――――
現金預金1000|資本金 1000
|
(2)A社は、大阪に子会社B社を設立し、500万円を出資した。
B社は、出資の払込金を全額つかって、商品在庫を購入した。(大阪では、知り合いに店舗を借りたが、敷金・保証金はゼロにしてもらった。)
A社の財務諸表 B社の財務諸表
――――――――――――――― ―――――――――――――――
貸借対照表 貸借対照表
――――――――――――――― ―――――――――――――――
現金預金500|資本金1000 現金預金 0|資本金 500
子会社 500| 棚卸資産500|
株式 |
(3)B社は、当期中に棚卸資産(=商品在庫)500をすべて販売し(=売上原価)、販売代金800万円を受け取った。
A社の財務諸表 B社の財務諸表
――――――――――――――― ―――――――――――――――
貸借対照表 貸借対照表
――――――――――――――― ―――――――――――――――
現金預金500|資本金1000 現金預金800|資本金 500
子会社 500| 棚卸資産 0|利 益 300
株式 |
↑
損益計算書 ↑
―――――――――――― ↑
売 上 高 800 ↑
売 上 原 価 -500 ↑
支 払 家 賃 - ↑
―――― ↑
当 期 純 利 益 300→・
====
(4)B社は、当期中に、地代家賃を60万円支払った。
A社の財務諸表 B社の財務諸表
――――――――――――――― ―――――――――――――――
貸借対照表 貸借対照表
――――――――――――――― ―――――――――――――――
現金預金500|資本金1000 現金預金740|資本金 500
子会社 500| 棚卸資産 0|利 益 240
株式 |
↑
損益計算書 ↑
―――――――――――― ↑
売 上 高 800 ↑
売 上 原 価 -500 ↑
支 払 家 賃 - 60 ↑
―――― ↑
当 期 純 利 益 240→・
====
…いかがですか?
おなじ大阪地域への事業進出であっても、支店を設置する方式だと、A社と組織的に一体となっているので、A社の売上高が800万円、当期純利益が240万円となります。
それに対して、事例2のように、大阪に別会社(B社)を作って、それを子会社として運営すると、A社には、大阪事業の業績がまったく反映されません。
経済的には、まったく同じ機能をもっているのに、それが支店の形態か子会社の形態かで、まったく業績がかわってきます。
つまり、大阪事業のような多角化事業が、子会社形態の場合にまったく反映されない。これが、単独決算の欠点です。
裏を返せば、この問題を解決するために連結決算が必要なのですね。
連結決算ならば、支店のかたちであろうと、子会社のかたちであろうと、事業多角化の業績は、親会社(本社)に取り込まれ、きちんと財務諸表にも反映されますからね。
ちなみに、なんらかの事情で、将来、上記の大阪事業から撤退しようとしたときにも、やはりいろいろと手続き面で、支店の場合と子会社の場合で異なってきます。
支店の場合は、A社の一部であることから、事業の閉鎖をするためにたいへんな手間が掛かります。
でも、子会社のかたちで運営していた場合には、その子会社株を、必要とする第三者に売却するだけで、その事業から手を引くことができるので、撤退戦略という観点からは、非常に機動的な処置がとれますね。
このように、子会社としてグループ運営する、というのは、迅速な事業再編が可能となるので、便利といえば便利です。
以上、支店または子会社という、運営形態による事業展開の違いについて、少しでもご参考になれば幸いです。
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