今回は「サラリーマンか起業か? 機会原価と埋没原価の計算例」というテーマでお話をします。
日商簿記検定1級の原価計算の後半でやる概念で意思決定というところがありますが、これはとても大事なものです。
ビジネスやプライベートでもよく出てくる場面だと思いますが、「A案」と「B案」があってどちらを採用するかというときに、会計的な観点から比較し意思決定をするための情報を提供します。
そのときの情報の吟味の仕方で重要な概念が2つあります。
それが、「機会原価」と「埋没原価」という考え方です。
この言葉は難しそうに聞こえますが、日常にも活用できるので、今回は簡単な計算例でご紹介したいと思います。
たとえば、現在サラリーマンをやっている方が独立・起業すべきかどうかという悩みがあったとします。
サラリーマンを続けるという選択肢をA案とします。
独立・起業してお店などを始める選択肢をB案とします。
この2つの案を、簡単に収支を想定して、計算例でみていきます。
大事なことは、これは実際に独立することが良いかどうかという問題よりは、計算する過程での埋没原価というものの求め方と、機会原価というものの考え方を理解することがポイントなので、本当にこの計算例のとおり実例がいくかどうかは分かりません。
計算例をみてみると、A案をベースに考えて、AからBを引きます。
収益から原価を引くと利益になります。
この利益のことを差額利益といいます。
そんなに難しいことは言っていないので、簡単に収支を考えればいいのです。
たとえば、サラリーマンを続けていれば給与収入がありますが、これを収益とします。
一方、起業をすると給与収入は入りませんが売上高が上がります。
サラリーマンの場合は、必要経費はかかりませんが生活費がかかります。
一方、起業をすると必要経費はかかりますが、生活費も依然としてかかります。
このような身近な例が一番分かりやすいと思います。
教科書では「新規の受注を受ける」など、それなりに会社のイメージがあって難しい事例で考えることがありますが、もっと身近な事例で考えられるのです。
まずはA案の立場から、サラリーマンを続けるか得か損かでみていきます。
A案は、給与収入が600万あって、生活費で480万マイナス、利益が120万になります。
要するに、サラリーマンを継続すると、税金は別として手取りが120万になります。
一方、起業をしたらどうなるかというと、給与収入は入りませんが売上高が1,000万となったとします。
そして必要経費が450万かかって、売上から差し引くと550万の所得が得られます。
しかし、それ以外にも生活費が必ずかかるので、生活費480万円を引いて、70万が手取りとなります。
そうすると、B案の利益は70万でA案の利益は120万となります。
A案の利益からB案の利益を引くと50万のプラスとなります。
こんどは少し中身を詳しく考えてみます。
給与収入と売上高で比較してみると、起業のほうが400万有利になります。
これは差額収益です。
差額収益が△400ということは、サラリーマンのほうが不利だということです。
ただし、差額原価が問題で、生活費480万はどちらの案を採用しても変化がありません。
このように選択肢を変化させても変わらない原価を「無関連原価」あるいは「埋没原価」いいます。
これは無関連なので無視していいです。
そうすると、△400と+450を差し引きして+50になります。
つまり、A案は差額収益でみると不利になりますが、差額原価では有利になります。
差し引き50だけ有利ということになります。
このように、差額収益と差額原価の合計を差額利益といいます。
このことからA案が採用されるのですが、この考え方とは別にサラリーマン案だけをみていきます。
サラリーマン案だけの収支を計算すると、600万から480万を引いて120万になります。
120万だけだとまだ分からないので、サラリーマン案が有利かどうかをみるには、120万から機会原価を引きます。
機会原価とは何かというと、B案の途中経過を無視して、ずっと計算した結果70の利益が出ますが、これはライバル案の利益で「逸失利益」といいます。
A案からすると、起業をすると70万得られますが、起業をしないことによってサラリーマンは70万の利益を得る機会を失います。
つまり、A案を採用することによって失ってしまうB案の利益を逸失利益といいます。
A案にとっては、ライバル案の利益は原価と考えます。
A案の立場で考えると、他のライバル案で得るはずだった利益も原価と考えますが、これを機会概念といいます。
したがって、機会原価というのは、他の選択肢で得るはずだった最大利益ということです。
なぜ「最大」という言い方をするのかというと、他の案があるかもしれないからです。
たとえばA案のサラリーマン、B案の独立・起業案以外に、C案として保険の外交や株式投資など、第三の選択肢もあったとします。
そうするとC案にも利益がありますので、B案とC案の利益を比較して最大のほうをとるのです。
このように、複数のライバル案がある場合は、そのうち最大の利益を逸失利益とします。
その逸失利益を引いてもなおプラスになるようであればその案を採用するということです。
したがって、主の案を採用したがために失った利益を引きます。
これをA案の機会原価といいます。
この場合は起業の利益が70万ですので、70万という利益を失うのでこれをサラリーマン案の120万から引いて、なおかつプラスならばA案のほうがB案よりも良いということになります。
埋没原価と機会原価の考え方を知っておくと、いろいろな場面で応用ができます。
つまり、代替案で得られる利益を引いて、それでもプラスであれば今考えているアイデアを採用しても構わないということです。
これがマイナスになるようであれば機会原価が大きいということなので、ライバル案を採用するということになります。
埋没原価と機会原価の考え方を意識してみてください。
今後のあなたの意思決定に影響があるかもしれません。
がんばってください。
私はいつもあなたの簿記1級合格を心から応援しております。
ここまでご覧いただきまして誠にありがとうございました。
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