株式の発行を伴う資金調達方法を、エクイティファイナンスといいます。
A社のケース(借入金100億円と新株発行80億円で設立した。)
バランスシート (億円)
――――――――――――――――――
現金預金 180 | 借入金 100 ←債権者から
|
| 資本金 80 ←株主から
|
もちろん、上記バランスシートの右側2つの項目のうち、2行目の資本金80が、エクイティファイナンスの部分です。
簡単に言えば、180億円の資金を調達するのに、100億円の借り入れと80億円の株式発行(会社設立後なら増資)を行った、というストーリーです。
で、上記の180億円の資金を設備投資に回して、それがうまくいき、年間20億円の税引き後の利益を稼げるように
なったら、ROA(総資産利益率)とROE(自己資本利益率)は、いくらになるでしょうか。
この場合の計算式を、
ROA=当期純利益/期末総資産(期首総資産+利益)
ROE=当期純利益/期末自己資本(期首自己資本+利益)
としましょう。(ROAの利益に経常利益などを使うことも多いです)
(答案用紙)
◎ROA = ( )%
◎ROE = ( )%
=============================================
…はい、答えです。
◎ROA = ( 10 )% ※{20/(180+20)}×100
◎ROE = ( 20 )% ※{20/(80+20)}×100
※一年後のバランスシートと損益計算書
バランスシート (億円)
――――――――――――――――――
総資産 200 | 借入金 100
|
(現金預金その他)| 資本金 80
| 純利益 20
↑
損益計算書 (億円) ↑
――――――――――――― ↑
売 上 高 ××× ↑
○ ○ 費 (―)××× ↑
: ↑
―――――― ↑
当期純利益 20→・
======
…いかがですか?
A社は、一年間で、借入金と新株発行で調達した資金を有効活用して、20億円の利益を上げました。
そして、第1期終了後の株主総会です。
稼いだ利益を、2年目にどう使うか?
あるいは、株主に配当ないし自社株買いで還元するか?
さらに規模を拡大したい、と思えば、稼いだ20億円を株主に還元せず、さらに設備投資などにまわせばいいでしょう。
そのとき、「いや!チャンスだから、一気に規模を大きくしたい!」と経営者が思えば、さらに追加で増資を募って、資本を増強しようとするかもしれませんね。
でも、追加で株式を発行する、ということは、将来、さらに利益を上げる自信がないと、1株あたり利益が希薄化(うすまる)ので、経営者は、相当な覚悟をすべきです。
また、自己資本も増えるので、財務体質は強化されますが、将来の収益性拡大の意図なき財務体質の強化は、株主の理解を得るのが難しいですよね。
だから、増資するときは、株主に、腹をすえて増収するという意思を強く表現しなければなりません。
たいへんですね。
※第2期に、さらに100億円増資する場合。
バランスシート (億円)
――――――――――――――――――
総資産 300 | 借入金 100
|
(現金預金その他)| 資本金 180
| 純利益 20
逆に、現状のROEを維持できる自信がない場合には、資金を寝かせておくことは、もしかしたら自前で他の投資のチャンスをもっている株主にとって不利益なので、自社株買いや配当でお金を返すべきでしょう。
※第2期に、企画中の新規事業投資ではROEがわずか2%程度と見積もられたので、稼いだお金を新規投資せず、自社株買いで 株主に一部払い戻した場合。
バランスシート (億円)
――――――――――――――――――
総資産 180 | 借入金 100
|
(現金預金その他)| 資本金 80
| 純利益 20
| 自己株式▲20
―――――――――|――――――――
計 180 | 計 180
==================
現実問題として、本当は上記のようなケースなのに自社株買いをおこなわないのは、株主に対して経営責任を果たしているとはいえないですね。
(※もちろん、このほか、企業のおかれた情況によっては、自己資本を手厚くして、近い将来の危機に備える、という 意思決定も、時として必要です。なんでもかんでも還元、というわけではないです。念のため。)
だから、追加投資とか新規事業の投資対利益率をしっかりと予測し、それが株主の期待する(と思われる)利回りのときだけ追加資金調達すべきで、自信がなければ、あまった資金は還元するという意思決定との天秤は、もっともシンプルに考えれば、上記のようなケーススタディーとなるんですね。
本稿での結論は、経営者が現在の資金を配分するさいに、「追加投資と自社株買い(または配当)は、重要な二者択一の場面」である、ということです。
そして、追加投資に必要な資金が、手持ち分でたりない、となったときに、「増資」とか「社債発行」とか「借り入れ」とかの選択肢が次に生じるのですね。
以上は、経営者の経営責任の本質の一端を考察するユニークな説例ということで、ご理解いただけると幸いです。
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