減価償却100万円は、40万円の「無利息借入金」に等しい!

減価償却は、会計技術上、決算手続においてもっとも重視される項目の一つです。
まずは、減価償却を定義しましょう。

「減価償却とは、固定資産の取得原価を、一定のルールに基づき、 耐用年数の中で期間配分する会計手続のことである。」

ここで、取得原価とは、「購入時の支出額(購入金額+付随費用)」のことです。
付随費用とは、「引取費用(運賃)」や、「仲介手数料」などの、資産取得に直接要した関連支出のことです。
耐用年数とは、その資産の「使用に耐えられる年数」、すなわち寿命のことですね。
固定資産を、保有期間中に、どのように費用配分するか、という問題は、非常に悩ましいです。

例を挙げてご説明しましょう。

(例1)1.A社は、1000万円の建物を購入した。
      耐用年数は10年である。
      10年後の見積り処分価値(残存価額といいます)は、
      0円である。
    2.A社は、1年目から10年目まで、毎年、100万円の
      売上高を計上しており、費用は0なので、利益は売上高
      の全額である。
    3.毎年の法人税額は、利益の40%支払うものとする。
    4.A社は、10年目に建物が古くなったので壊した。
      取り壊しのための支出はないとする。
      (建物の実体だけが、10年目に消えてなくなる。)
    5.11年目に、営業を継続するため、同様の建物を
      再建設するために、当初の取得原価と同額、すなわち
      1000万円の再投資資金が必要となる。

■A社の1年目から10年目までの損益計算書

 年 度  売上高   費 用  利 益  法人税 - 建物評価
 取得時    0     0 (  0)   0 - 1000
 1年目  100     0 (100) △40 - 1000
 2年目  100     0 (100) △40 - 1000
 3年目  100     0 (100) △40 - 1000
 4年目  100     0 (100) △40 - 1000
 5年目  100     0 (100) △40 - 1000
 6年目  100     0 (100) △40 - 1000
 7年目  100     0 (100) △40 - 1000
 8年目  100     0 (100) △40 - 1000
 9年目  100     0 (100) △40 - 1000
10年目  100 △1000(△900)   0 -    0
     ――――  ―――― ―――― ―――― ――――――
損益合計 1000 △1000(   0)△360      -
※現金  1000     0    - △360 =640

 収支

■11年目の全面改修に必要な資金:1000万円

■過去10年で残った現金の額  : 640万円(-)
                 ――――――
■改修のために必要な借入れ額  ; 360万円

このように見ていくと、「利益が10年間、まったく配当にまわらなかった」としても、売上利益に対する税額40万円×9年=360万円は社外流出しているため、11年目の再投資資金が足りなくなります。
これが、減価償却という会計手続をしなかった場合の財務的な問題点です。

また、上記の表の一番右側を見ると、建物評価について、10年目に取り壊して実体がなくなった時点ではじめて取り壊し損失として、1000万円を費用化しています。
なにも手立てを講じなければ、過去10年は、このような損益経緯となるのですね。

そこで、次に、下記のB社のケースを見てみましょう。

(例2)1.B社は、1000万円の建物を購入した。
      耐用年数は10年である。
      10年後の見積り処分価値(残存価額といいます)は、
      0円である。
      さらに、B社は、毎年、一定額の減価償却費計上
      (使用・時の経過による設備劣化分の見積り費用処理)を
      行った。
      その額は、1000万円÷10年=100万円である。
    2.A社は、1年目から10年目まで、毎年、100万円の
      売上高を計上しており、費用は0なので、利益は売上高
      の全額である。
    3.毎年の法人税額は、利益の40%支払うものとする。
    4.A社は、10年目に建物が古くなったので壊した。
      取り壊しのための支出はないとする。
      (建物の実体だけが、10年目に消えてなくなる。)
    5.11年目に、営業を継続するため、同様の建物を
      再建設するために、当初の取得原価と同額、すなわち
      1000万円の再投資資金が必要となる。

■A社の1年目から10年目までの損益計算書
 年 度  売上高   費 用  利 益  法人税 - 建物評価
 取得時    0     0 (  0)   0 - 1000
 1年目  100  △100 (  0)   0 -  900
 2年目  100  △100 (  0)   0 -  800
 3年目  100  △100 (  0)   0 -  700
 4年目  100  △100 (  0)   0 -  600
 5年目  100  △100 (  0)   0 -  500
 6年目  100  △100 (  0)   0 -  400
 7年目  100  △100 (  0)   0 -  300
 8年目  100  △100 (  0)   0 -  200
 9年目  100  △100 (  0)   0 -  100
10年目  100  △100 (  0)   0 -    0
     ――――  ―――― ―――― ―――― ――――――
損益合計 1000 △1000(   0)   0      -
※現金  1000     0    -   0 =1000

 収支
■11年目の全面改修に必要な資金:1000万円

■過去10年で残った現金の額  :1000万円(-)
                 ――――――
■改修のために必要な借入れ額  ;   0万円

…いかがでしょうか。
各年度(1年目?9年目)に減価償却費100万円ずつを、建物の劣化に伴う評価損として計上することにより、税引き前の利益を0にすることができました。
実際、各年度末を見ると、建物が少しずつ価値を落としていく、という見方をする方が、実体にあっていて、例1のときより、合理的な会計的表現ができていますよね。

そして、10年目の費用である、解体に伴う中古建物の処分損失は、直前の9年目における帳簿価額(簿価とも言います。帳簿に登録されている評価額のことです。)100万円が、0円になる、という感じになります。

ここで、注目すべきは、例1では毎年40万円の資金を税金として流出させていたのが、例2では、減価償却費の
計上によって社外流出を防止しています。
いいかえれば、「毎年40万円の資金を無利子、無期限で借り入れている」に等しい財務効果を得ているわけですね。
それが9年間累積して、みごと、例1における360万円の資金不足を解消しました。

このように、減価償却費の計上は、「各年度において現金支出をともなわず」に、合理的に費用を計上し、節税できるという、貴重な会計技術なのです。
とても重要な財務効果なので、しっかりと理解してください。

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