そうは言っても、テキストの解説や普段使っている計算問題の解説をしっかり読み込めば、ある程度は対応できます。
しかし、会計の総論的な話がわかっていない方が意外と多いので、せっかく日商検定1級という上級レベルの資格の勉強をしているので、会計の基本的な部分を少し知っていただきたいと考えています。
現代会計の中心課題は、期間損益の算定です。
この20年ぐらいで、国際的な会計基準に合わせていくという話もあるので、今は「資産負債アプローチ」という、貸借対照表の資産と負債の評価あるいは変動を重視したうえで、それに関連して会計を行うという、バランスシート中心のアプローチに重心が移っています。
ただ、そうは言っても、損益の計算がないことには会計報告は成り立ちませんから、やはり近現代の会計の中心課題の1つは、利益の認識なのです。
利益というのは、一定期間の収益と費用を集計・比較した差し引きです。
利益そのものは測定できないので、収益と費用の測定の原則を明確にします。
具体的には、測定(金額の決定)と認識(記録する日)ということですが、今回のテーマは「認識」についてのお話になります。
発生主義会計と現金主義会計を一言で表すと、収益・費用の認識時点の決定をどういった事実に基づいて行うかということです。
では、取引例を見ていきます。
4月20日に商品1,000円をお得意様に発送しました。
1級の会計学を勉強された方はわかると思いますが、これは商品の引き渡しなので、「実現」という状況です。
「発生かつ実現」と言います。
実現主義というのは色々な解釈がありますが、発生主義という考え方の制約と考えるとわかりやすいです。
設例に戻ります。
補足すると、このお得意様は月末締め翌月10日払いという支払条件だと想定してください。
4月末日に締めて、当然、4月20日発送した分の1,000円も請求書に含めて、お得意様に請求書を渡します。
それを受けて、お得意様は5月10日に商品代金1,000円を現金で支払ったとします。
みなさんが今まで勉強してきたのは「発生主義」といって、取引の発生した日に収益を計上するという、現代の制度なのです。
収益や費用を認識すべき事実(経済価値の増加(減少))と言いますが、会社の中の資産が増えたり負債が減れば収益になり、あるいは、会社の中の資産が減れば費用になります。
そういった資産の増加・減少のような経済的な事実が発生した日に収益を計上するということです。
これは現金の収入・支出とは関係なく、会社の資産が増えたり減ったりするような事実が認められたときに収益を計上します。
したがって、この例では、お金のやり取りは5月10日に行いますが、お金をもらう前に出荷という事実があって、会社には「売掛金」という請求権が手に入ったことによって経済価値が増えたわけです。
企業内部で経済価値の変動の事実があった場合には収益・費用を認識しましょうということです。
企業の中で儲けが発生すれば「収益」ですし、儲けが減るような事実が発生すれば「費用」になります。
会社の中で経済資源が増えたり減ったりするような取引事実が発生した日に収益・費用を認識しましょうということです。
「計上」というのは本来は「測定」も含めますが、今回は「認識」という意味だと思ってください。
取引の事実が発生した日に収益や費用を記録するということです。
これは現代の制度です。
大昔はすべて現金だったかもしれませんが、今は売掛金や買掛金など、相手を信用して待ってあげるという信用取引が大規模に発達したので、現金収支をもって売上や仕入費用を計上するのは経済的実態に合っていないということで、発生主義になっています。
これは「発生主義会計」といって、広い意味の発生主義です。
狭い意味の「発生主義の原則」というのもあります。
狭い意味で言うと、これは「実現主義の原則」といいますが、そういったものを踏まえて、取引発生の事実をもって広く収益・費用を認識するというのが「発生主義“会計”」という制度の枠組みです。
この発生主義会計に対して「現金主義会計」というのがあります。
現金主義会計というのは、現金の収入・支出の日をもって収益・費用を認識することです。
設例では現金収入は5月10日なので、5月10日付で“借方 現金1,000”“貸方 売上1,000”というふうに計上する方法です。
ただし、これは現金収支の時期を取引状況によって任意に決定できるので、利益操作にもなってしまいます。
それに、実態にも合っていません。
実際に商品を引き渡してお金をもらう権利は4月20日に発生しているので、その時に収益を認識するほうが実態に合っています。
経済的実態にあっているかどうかという問題と、手付金のように現金収入の時期を遅らせたり早めたりすることによる利益操作の問題など、色々な観点から、現金主義会計は原則として使っていません。
ただし、1級を勉強された方はわかっているかもしれませんが、基本は発生主義会計ですが、部分的に現金主義が入っている場合もあります。
それは割賦販売の回収基準ですが、現金を回収した時に収益を認識します。
未実現利益控除法の場合はいったん売上に計上しますが、未回収の部分は利益から控除するので、あれも現金主義会計の表れです。
現金主義の精神が優先されるのは割賦販売の回収基準あたりで、それ以外は概ね発生主義会計だと思ってください。
現代会計は、現金主義会計を採用せず、広い意味で発生主義会計という枠組みの中で動いているのです。
そして、発生主義会計の中にも、細かい意味で、発生主義の原則、実現主義の原則、費用収益対応の原則というものがあります。
このように、「発生主義」という言葉を、広い意味と狭い意味で使い分けてみると、会計理論の勉強が面白くなると思います。
これは上級レベルの話なので、2級の方はわかりづらかったら気にしないでください。
ただ、柴山式総勘定元帳で考えると、会計理論はわかりやすいのです。
私がかつて行っていた公認会計士レベルの財務諸表論の講義でも使って、実際に合格者が出ているので、会計理論としても使えます。
むしろ、会計理論の検討に威力を発揮するのが柴山式総勘定元帳と思っていただければ良いでしょう。
負債・資産・純資産・収益・費用と十字を書いて、それぞれのエリアの中に資産グループ、負債グループのように分けて書くと、とてもわかりやすいです。ぜひ、理論の勉強などにも使ってみてください。
今回は、発生主義会計と現金主義会計の違いについてのお話でした。
私はいつもあなたの1級合格を心より応援しています。
ここまでご覧いただきまして誠にありがとうございました。
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日商検定2級・3級は理論的な背景をあまり重視せず、ほぼ計算だけで試験には対応できますが、日商検定1級になると、ある程度理論的なことを勉強しておく必要があります。